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2023年9月 北川 雄光さん
(慶應義塾常任理事 医学部外科学教授 慶應義塾大学病院前病院長)

今日も生涯の一日なり

北川 雄光さん

 北川さんは慶應高校の時に水球部で活動されたと伺っていますが、なぜ水球部を選びましたか? どんな高校時代を過ごされましたか?

北川さん: 水球をやろうとずっと前から心に決めていたわけではなかったのですが、子どもの時から水泳は好きでした。当時慶應高校の校舎に行く、銀杏並木の右側に外から見えるプールがありました。今の協生館の場所ですね。水球をやっているところを眺めていたら、大学水球部の先輩に勧誘されました。楽しそうなスポーツだなと思って軽い気持ちで入部してしまいましたが、実際は想像以上に過酷なスポーツでした。

水球は夏のシーズンがメインのスポーツなので、夏はいつも泳ぎっぱなしでした。朝練の後に昼休みも練習があり、コンクリートブロック2つを頭に乗せて立ち泳ぎの練習をします。足の立たない深いプールでも自然と水の中でバランスを保つ泳法です。昼休みの時間にずっと立ち泳ぎをしていました。放課後がメインの練習ですのでで、シーズン中はずっと水の中にいる生活でしたね。笑

 練習すれば誰でも立ち泳ぎできるようになりますか?

北川さん: コツを掴めば、膝から下をくるくる回して立ち泳ぎできるようになりますね。

 高校時代の水球にしても、消化器外科医(食道がん手術のプロフェショナル)にしても、いずれもハードな方を選ばれたと思いますが、それは何故でしょうか?

北川さん: 高校時代の水球は面白そうなことを自然と選んだという感じですね。水球以外にも、ラグビーやアメリカンフットボールなどハードなスポーツがありますけれど、たまたま僕は水球を選んだということですね。

食道外科は確かに大変な領域だと分かりつつ選びました。消化器外科の領域では、肝臓移植を含む肝胆膵外科も難しい分野です。当時(1986年)はまだ日本では肝臓移植が始まっていなかった時代ですから、やはり食道がん手術が一番難しい手術の一つでした。手術も長いですし、術後もしっかり患者さんを管理しなくてはいけません。僕はむしろそれに憧れて食道外科医になりました。

 北川教授は医療全般を担当される慶應義塾常任理事へ就任されてから2年以上経ちますが、病院長を務められた時と常任理事を務めている時の生活がどのように変わりましたか?

北川さん: 両方とも大変な仕事だと思いますが、多少業務内容が異なります。病院長は医療現場のことを全部把握して、瞬時に判断して、自分でどんどん決断していかなくてはいけません。本当に「戦場」にいるような感じでした。特に僕が病院長の時はコロナの直撃を受けましたから、必死で皆と一緒に闘っていました。当時はコロナがどんなものか分からない中で、病院全体を守らなければならないという一心で頑張っていました。

常任理事の仕事は、非常に幅広い仕事です。義塾全体の将来、日本の行く末など中長期的なことも考えながら、塾長を中心に大きな流れをつくっていくというイメージです。病院長と常任理事の業務内容はスピード感、ストレスの質は違いますが、どちらもやりがいがあります。

 病院長のお仕事と常任理事のお仕事、どちらがよりストレスを感じますか?

北川さん: 両方とも質の違うストレスがあるのですが、病院長は慶應義塾の中でも最もストレスフルなポジションなのかもしれませんね。もちろん、塾長は全ての責任を負っていますので、一番ストレスの多い立場だと思いますが、二番目にストレスフルなポジションは大学病院長かもしれません。命というかけがえのないものを扱いながら、一定の頻度でいろいろなリスクが発生しますので、大変な業務だと思います。

 北川さんは筆頭常任理事として、医療だけでなく、慶應義塾の教育や研究を統括する役割も担っていらっしゃいますので、以前よりもお仕事の範囲が大きく拡大したと思います。医師の目線からご覧になって、今の塾の現状と将来についてどのようにお考えでしょうか?

北川さん: 今の慶應義塾の体制は教育、研究、医療の3本柱を塾長、常任理事10人に含めた全員が理解して、方向性を共有して動いている状況です。

伊藤塾長は、日本や慶應義塾の現状に危機感を持って、慶應義塾のあるべき姿、もっと言うと、日本や世界のあるべき姿を追求する、慶應がそれを先導していくのだという強い決意に突き動かされて大きな目標を立てています。伊藤塾長が一番意識しているライバルがいるとすれば、福澤諭吉先生かもしれません。福澤先生の時代には、『学問のすすめ』が発刊され日本中の若者がこれに賛同して集まってきました。慶應義塾が社会を先導することによって、日本の近代化が推し進められていきました。今の慶應義塾が当時と同じ役割を果たしているか、慶應義塾の目的に照らしてわれわれは使命を果たしているかをわれわれ自身が自らに問い直しています。僕はこの危機感、未来に向けての決意は正しいと思います。

  学生時代にスポーツに打ち込んだご経験がのちに医師、病院長、そして常任理事になられてからどのような影響を与えましたか?

北川さん: 僕は外科医ですが、実はスポーツと外科学は共通項がとても多いような気がします。まず、大切なことは理屈抜きに好きかどうかです。長時間かかっても、少々難しい手術でもやりがいを感じますし、そのこと自体が楽しいと感じます。スポーツもそうですね。時には苦しいこともありますが、やりがいと達成感があります。

そしてもう一つは、自分を高めることの喜び、できなかったことができるようになったり、明らかに自分が上手くなったり、試合で勝てるようになったりなど、共通の喜びがありますね。僕たち勤務医は執刀する手術の件数で収入が大きく変わるわけではないですが、少しでも多くの経験を積みたいと努力します。アマチュアスポーツでも報酬をもらっているわけではない中で、ベストを尽くしているのも同じ状況です。自己研鑽を積んで、自分の力が伸びていくことで喜びや充足感、満足感、達成感を感じる感覚は学生時代のスポーツ、外科医としての修練、そして病院長などマネジメントに携わる上で共通の基盤になっている気がします。

  もしこれから新しいスポーツを一つ始めるとしたら、どれを選びますか?

北川さん: 僕はもうすぐ63歳になりますので、新しいスポーツを始める体力もあまりないのですが、もし自分に若い肉体と精神力が戻ってくれれば、チャレンジしてみたいのはスキューバダイビングのような大自然の中で探検するスポーツです。

  北川さんは1986年に慶應義塾大学医学部をご卒業されてから現在までの37年間にわたるプロフェショナル人生をどのように振り返りますでしょうか?

もしタイムマシンに乗って少年時代に戻れるとしたら、今と同じように医学部に進み、外科医になり、病院長になり、慶應義塾の常任理事になる道を選びますでしょうか?

北川さん: これは難しい質問ですね。笑

答えが二つあります。一つはやっぱり外科医を選ぶ、という答えです。それはまだまだ外科医としてやりたいことがあるからです。外科医としての僕は今62歳ですけど、やるべきことは全部やったととても思えないです。あれをやっておけば良かった、若い時あれを身につけておけば良かったと思うことはたくさんあります。もし僕の人生経験の記憶がきちんと残ったままやり直せるとしたら、自分の中でもう少しやりたいことがいっぱいあります。また、今の時代から外科医としてスタートできるなら、もっといろいろなことができると思います。様々な新しい技術が世に出てきましたので、もう1回外科の道を選んでも、きっとやりたいことが山積みです。

一方で、全く違う世界、今まで体験したことのない世界、例えば、ビジネスの世界に行ってみたい気もしています。なぜならば、病院長と常任理事になってはじめて、もう少しマネジメントや財務の知識を若いうちに勉強しておけば良かったなと率直に思います。正直に言いますと、学生の頃、若い外科医の頃、40代ぐらいまでは大学病院長になるとか、慶應義塾の常任理事になるとか、全く想像していなかったので、そういう観点でのトレーニングはあまり積んでこなかったのです。もしそういう未来があると分かっていれば、そこに向けて自分なりの修練の仕方があったなという気もしています。

人生にはいろいろな可能性がありますし、チャレンジしたかったこともいっぱいあります。このことをぜひ若い世代に伝えたいですね。

  外科医、教授、病院長、慶應義塾の筆頭常任理事と歩んでこられて、それぞれ異なるステージで様々な課題やチャレンジに挑んでこられたと思います。北川さんを突き動かす原動力は何でしょうか?また、常にエネルギッシュでオープンマインドでバラエティーに富んだお仕事に取り組む精神力をどのように養っていますでしょうか?

北川さん: 人生というのは、計画どおりになかなかいかないですね。振り返ってみれば、あの時にああすれば良かった、この時期にあそこに行けば良かったと思うことはありますけれども、その時その時に与えられた仕事に精一杯打ち込もうというマインドを持っていれば、その都度自分なりのアイデアを出して、目標に向かって前進できるのではないでしょうか。たとえ今の境遇は自分にとって不本意だと思っていても、そこでできることに対してベストを尽くすという考え方ですね。これは僕が一番大切にしていることです。

大学病院の医師で言えば、勤めたい病院があったとしても、必ずしも希望通りの病院に配属されないこともあります。会社組織でも希望の部署に配属されないこともあるでしょう。そのことに不満を抱いて嘆いていても、時間が無駄に過ぎていくだけですから、置かれた場所でできることを積極的にやっていく方が良いと思います。

1993年から3年間をカナダで留学生活を過ごしました。最初に与えられた研究テーマは、自分が望んだテーマではありませんでした。どうしようかな、こんなのやるのかと思いましたが、なんとなくやっていくうちに、これをやったら将来きっとこういう風に役立つかもしれないというように少しずつ気持ちを切り替えました。ここが大事なポイントですね。柔軟に切り替えてベストを尽くすことです。そうすると、予想外のところで役に立ったり、良い結果になったりすることもあります。

実は、僕が外科医になって最初に配属された病院はとても小さい病院で、人手も、症例数も少ない病院でした。一方で、大学病院のように専門家がたくさんいる病院と違って、いろいろな検査や手技を自分の手で行ってとても勉強になりました。外科部長の先輩にもマンツーマンでたくさんのことを教えてもらいました。後々になってこの当時の経験がとても役に立ちました。ですから、気持ちの切り替えがとても大切ですね。

  北川教授は外科医として長年培ってきた手技、集中力、洞察力、創造性が今の常任理事のお仕事にどのように役立てているのでしょうか?

北川さん: 実は、外科医にとって一番大切な要素は手先が器用かどうかではなくて、判断力だと思います。私自身もこの患者さんに手術をするべきか、あるいは控えるべきか、手術を始めたら、どこまで切除すべきか、術後に何か起きたらどう対処すべきか、その時その時で、自分で冷静に判断するという訓練を積み重ねてきました。ただ単に、切ったり縫ったりするだけでなく、適切な判断力と危機管理に関連した鋭い直感も非常に重要な能力です。こうした要素は病院長や常任理事としてのマネジメント業務においても同じように重要だと思います。

もう一つ大切なのはチームワークです。外科医は必ずチームで動きますので、周りを束ねながら同じ方向にリードしていく力が必要です。自分と違う意見を言う人がいても、その人の言うことに耳を傾けてその意見を取り入れることで事態が好転することもよくあります。判断力とチームワークの二つの要素は外科医の時に積んだ訓練が今の仕事に役に立っていると考えています。

  北川さんのような外科医として長年にわたり判断力とチームワークを磨いてきた方が常任理事になるのと、その他のバックグラウンドをお持ちの方が常任理事になるのと、どのような違いがあるとお考えでしょうか?

北川さん: 同じようなタイプの人が10人いるより、様々なバックグラウンドを持っていて、バラエティーに富んだ経験がある人材が協力して慶應義塾という大きな組織を動かしていくことが大切だと思います。まさに多様性ですね。

北川さんと編集長・シャオシャオ

  日進月歩のAI技術が医学と医療の分野に入ってくることによって、未来の医学と医療はどんな風に変貌していくとお考えでしょうか?

また、AI技術は未来の大学、未来の教育、未来の社会にどんな変化をもたらすとお考えでしょうか?

北川さん: 僕自身は慶應病院の病院長時代から5年間にわたり内閣府のAIホスピタル事業という大きな事業のモデル病院として改革を行ってきました。医療の提供体制や医療の概念が変わってくると思います。

今まで病院という1つの箱があって、患者さんが来院して、診察したり治療したりして、病院から離れていくという形でしたけれども、患者さんの医療データを患者さん自身、様々な医療者が共有して、社会全体を見守っていく時代が訪れるでしょう。これからは医療の守備範囲が一層広くなると考えています。例えば、病気になってから治すのではなく、未病・予防の段階からいろいろな手段を講じて健康な体を作っていく、また、何かしらの病気をされた方もその後の人生を安心して日々の生活の中で作っていく。こうした社会を達成する1つの道具としてAIが活用されていくでしょう。

例えば、遠隔地で自宅にいる患者さんの状態をデータとして収集し、瞬時に対応できるようになります。病院に来院して治療や診断を受けるだけが医療という時代が終わると思います。それは人間や社会にとって良いことですね。また、個人個人の未来も予測できるようになります。

  ここ最近は働き方改革についての議論が活発に行われており、例えば女性医師の家庭と仕事の両立など様々な課題がありますが、北川さんが考える未来の医師像とはどのようなものでしょうか?

北川さん: 今、医師の幸福度について、慶應のシステムデザインマネジメント研究科の前野先生と共同で調査研究を行っています。医師の働く時間を短くすれば、幸せを感じるかというと、実はそうでもないことが分かりました。特にわれわれ外科医に関して言えば、手術をする時間、即ち、自分がやりたいことをやることによって幸せを感じることが分かりました。AIがこれから医療にもどんどん入ってきますので、ヒューマンエラーを無くすためにも単純作業をAIに任せたら良いと思います。医療者は医療者でしかできない手術や高度な判断、患者さんとの人間的なつながりなどに集中できるようになります。そういう仕事は医師にとって大きな喜びですので、そこに時間とエネルギーを集中できる時代になってきています。将来、遠隔ロボット手術が実用化されたら、自宅にいながら手術ができたりする時代が訪れるかもしれません。

  人類の平均寿命(特に先進国で)がこれからますます延びていくことを考えますと、未来の医療はどんな風に変わっていくと思いますか?

北川さん: 今の日本は超高齢化社会になっていますがこの傾向は将来全世界で生じる可能性があります。アフリカの多くの国々の平均寿命は日本よりかなり短いです。アフリカの人々はマラリアなどの熱帯病を含む感染症やエイズなどで命を落としています。こうした感染症を克服するとその次は加齢によって起こる病気で亡くなることになります。その一つが「がん」ですね。がんはいろいろな外部の刺激に晒されることによって細胞が変化して発生します。長く生きていれば、血管もどんどん弱って脆くなっていきます。こうした病気がどんどん増えていきますから、医療の対象も変わっていくと思います。より一層様々な予防や未来予測、健康な体作りというような未来型の予防医療が大事な時代になると考えています。

  北川さんのご専門について少しお伺いしていきます。

消化器がんは怖い病気ですか? 消化器がんにならないために、私たちは日々の生活の中で注意した方がいいことは何でしょうか?(例えば、粘膜を傷つけるので、とても熱い飲み物を飲まない方が良いと聞きましたが)

北川さん: 日々の生活の中で心がけた方がいいことはたくさんあります。まず、あらゆるがんに関連するリスクを減らすために喫煙しないことが大切です。実は、飲酒もある程度がんになるリスクを増加させます。飲酒をすることによって、アセトアルデヒドという物質が体内に溜まり、これが食道がんのリスクを増加させます。お酒を飲んですぐに顔が赤くなる人はアセトアルデヒドを分解する酵素の力が弱いため、アセトアルデヒドが溜まりやすく、結果として食道がんのリスクが高まります。肥満もがんになるリスクの1つと言われています。

今の日本では、がんに罹った人のうち約7割が完治する時代になりました。現在、日本人の死因の一番はがんですが、昔のようにがんになったら死を意識する状況ではありません。進行がんであっても治るチャンスがありますし、ましてや早期がんはかなりの確率で治りますので、早期発見はとても重要です。

年齢を重ねる毎にがんになる確率は高くなるので、40代ぐらいからしっかり検査を受けた方が良いと思います。僕の専門領域である消化器がんで言えば、内視鏡検査を受けることが大事ですね。今はいろいろな先進的な検査が出てきています。例えば、尿や血液でスクリーニングして、詳しく調べていくこともできますね。

  PETについて見聞きしたことがありますが、被ばく量が多いとも言われていますが、いかがでしょうか?

北川さん: もちろん被ばくがないわけではありませんが、一定期間を空けて受ければ、そんなに心配は要りません。また、慶應義塾大学病院の予防医療センターは今年11月に麻布台ヒルズに移転・拡張しますが、がんだけでなく様々な疾患について最新の検査ができるよう体制を強化しています。PET検査は信濃町で引き続き行いますが、それぞれの受診者の方々の状況に応じて、PET検査の間隔も適切に設定していきます。

  北川さんの夢(仕事の夢とプライベートの夢)を教えていただけますか?

北川さん: 僕は大学人であり、医療人でもありますので、今の若者たちが慶應義塾で学んで良かったと思うような慶應義塾、誇れる慶應義塾でありたいという大きな夢があります。福澤先生が作られた頃の慶應義塾を思い起こすと、誇らしい気持ちになりますね。当時の日本においては国の近代化に慶應義塾が一定の貢献をしたのだと思います。

また、医療について言えば、様々なストレスやリスクがある中でも、医療に身を置くということは、絶対的な価値観があると思っています。どこに行っても、どの時代に生きても、医療は無くならないし、価値を失わないのです。ここで学べて働けて嬉しいと若者たちが思えるような慶應の医学・医療でありたいと思います。

プライベートの夢に関しては、仕事から離れていろいろなところに行ってみたいです。また、自分の興味が赴くままに何かを学んでみたいという気がします。今まではどうしても仕事から離れることができませんでした。医学とは直接関係がないことも勉強してみたいですね。今まで、興味はあったのですが歴史や文学を深く勉強する機会はありませんでした。そうした分野に漠然とした憧れがあります。

  今のお仕事は多忙を極めているとお察ししますが、普段はどのようにリフレッシュをしていますか?

北川さん: そうですね、僕は比較的運動が好きなので、泳いだり、トレーニングしたり、ゴルフしたりと、何かと体を動かすことでリフレッシュしています。また、たまに孫と遊ぶこともリフレッシュになりますね。病院長になるまでは時々時間を見つけてジムで泳いでいましたが、最近はコロナ禍もあったため、あまり泳ぐ機会がなくなってしまいました。当時は1回行くと、1時間以上かけてゆっくり3000メートルを泳ぎます。必死に泳ぐわけではないので、いろいろなことを考えながら泳ぎます。僕にとってはいろいろなことを頭の中で整理するのに良い時間です。

  お仕事とプライベートのバランスはどのように取っていますか? ご趣味は何でしょうか?

北川さん: 僕の生活はどうしても仕事の方により比重を置いています。振り返ってみれば、コロナ禍は家族と過ごす時間が結構長かったので、バランスは良かったと思います。ちょうど僕は病院長の時と重なり、コロナに関する業務や対応で多忙でしたけれども、外食などの機会は一切なかったので、遅い時間に帰っても自宅で家族と話しながら食事をしていました。最近はまた外食が増えてきたので、その分仕事の方に偏りがちになっていますね。コロナ禍は大変なストレスを抱えていましたが、家族と過ごす時間が増えたことは良かったのではないかと思います。社会生活も完全にコロナ前に戻すべきでないというのが僕の考えです。コロナ時代の経験を生かして、効率の良い新しい社会をつくっていくべきだと思っています。

  ちなみに、北川さんの睡眠時間は何時間でしょうか?

北川さん: 正直、睡眠時間は短い方だと思いますが、これは医学的にみれば良くないですね。やはり7時間ぐらい睡眠時間を取らないと、睡眠負債ができてしまいます。認知症をはじめ様々な病気になりやすい原因の1つでもあります。現在、慶應義塾大学病院の予防医療センターを拡張・移転するにあたって、睡眠という要素が非常に重要であると考えています。睡眠をモニターして、睡眠の質を改善することも必要だと思います。

  北川さんから若い世代へのメッセージをお願いいたします

北川さん: 若い世代にこうしなさい、ああしなさいとか、あまり言えない時代になっていますね。僕らも上の世代の先輩から様々なロールモデルやキャリアパスを学びましたが、やはりその時代その時代に予想外のことが起きますので計画どおりにはいきません。特にこれからは予想外のことが起きる頻度や変化のスピードが上がると思います。一人一人独自の考え方で自分の人生をつくっていってもらいたいですね。予測不能な時代なので、若い頃からいろいろなことを自分で考えて判断できる能力を身に付けてもらいたいと思います。

先ほどにも話しましたが、たとえ今自分が置かれている状況が希望どおりでなくても、何かやってみる、トライしてみる、ベストを尽くしてみることによって、次の自分につなげるという思いでやってもらいたいと思いますね。

  北川さんのお好きな言葉を教えていただけますか?

北川さん: 今日も生涯の一日なり

これは福澤先生の言葉です。明日何起きるか分かりませんし、今日これから何か起きるか分かりませんので、その日その日を大事にして精一杯生きるということですね。

北川さんの座右の銘

※聞き手はThe Voice 編集長シャオシャオ

※ゲストの肩書きや記事の内容は全て取材当時(2023年7月)のものである。

編集後記

北川さんは外科医として大好きな外科手術をたくさん行って、絶えず自分を高めてきたということは、人生において「幸せの貯金」をたくさんしていたということなのです。

私たちも各々にとって理屈なく大好きなことを見つけて、持っている全てのエネルギーを捧げて、自分を磨けば磨くほど得られる喜びと充足感、達成感を味わって、人生を通して「幸せの貯金」をたくさんしていきたいですね!

そして、北川さんのお話を伺って、たとえ今の境遇は自分にとって不本意でも、そこでできることを見つけてトライしてみたい、ベストを尽くしてみたいと思うようになりました。その都度しなやかに気持ちを切り替えて、自分の人生の可能性を最大限に引き出したいと思うようになりました。

また、不確実性が増す時代では、自分で道を切り拓く力や物事を適切に判断する力を若い頃から徐々に養っていきたいと考えています。

北川医師の37年間にわたるプロフェッショナル人生は大学人や医療人として全力で走り続けてきました。そして、今は若い世代のためにより良い学ぶ環境と働く環境を提供すべく、日々献身的に奮闘しています。一方で、プライベートの夢として、歴史や文学、スキューバダイビング、のどかな田舎暮らしなど今まで全く関わりを持てなかった分野へのご興味も持っているようです。北川医師の好奇心旺盛で前向きで柔軟な心を私たち若い世代も見習いたいと思います。

北川医師、どうもありがとうございました!

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