東京三田倶楽部(Tokyo Mita Club)

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2023年5月 浅野 健太郎さん
(ベリーベスト法律事務所 代表弁護士)

常に貪欲に

浅野健太郎さん

 弁護士を志したきっかけは何ですか?いつからそうなりたいと思ったのですか?

浅野さん: 小中学生のころから困っている人を助ける仕事に就きたい、ニュースを見ていて世の中の理不尽を解消したいという思いは持っていました。しかし、大学の法律学科に進学した時点では(慶應義塾志木高からの内部進学)まだ弁護士になろうと決めてはいませんでした。慶應義塾志木高では麻雀に明け暮れていたのですが、法律学科に進学した麻雀仲間が当時できたばかりの司法試験予備校に通うと言い出したので、自分も行かないと麻雀ができなくなるというようなことを考えて司法試験予備校に通い始めたのがきっかけかもしれません。実際、予備校が終わった後に雀荘に行くこともしばしばでした。大学1年の秋でした。勉強をする中で、法律の面白さや、人を救うことができる法曹の魅力を強く感じるようになりました。

 今までのお仕事の中で成功したと思う時、やりがいを感じる時はどんな時でしょうか?

浅野さん: 自分が担当した個々の案件で勝訴したり、お客さまに喜んでいただいたことも成功だと言えますし、やりがいを感じましたが、やはり、少しでも多くの問題を解決するために事務所を成長させて、これまでに相当多くのお客さまの悩みを解決できたことは、大きな成功だと思いますし、やって良かったなと思っています。私たちの事務所だけではありませんが、多くの案件を扱うことで、これが大きなムーブメントになり、世の中にプラスの変化がもたらされたと感じることがあります。たとえば、多くの残業代請求がなされることで、残業代を支払わない会社が中小企業を含めてかなり減ったと感じています。交通事故分野で弁護士が介入する案件が増えたことで、保険会社が最初の段階で提示する金額が上がってきました。

 ベリーベスト法律事務所を立ち上げた時から必ず日本一大きい事務所にすると決めたのですか?ベリーベストを急成長に導いた浅野さんの原動力はどこにありますか?

浅野さん: 現在ベリーベスト法律事務所には380人の弁護士が在籍しており、グループ全体のスタッフは1600人にのぼります。弁護士の数で言えば、日本で6番目です。グループ全体のスタッフの数については公式な統計はないのですが、先日ある雑誌では日本一多いとされていました。

べリーベストを作った段階で日本一の規模にしようということを具体的に考えていたわけではありません。ただ、日本中にお客さまのニーズがある限りは、できる限りそれに応えていこう、具体的には全国にオフィスを展開していこうという考えは当初からありました。

急激に成長できた理由としてはまずタイミングが良かったことがあります。

2006年にべリーベストの前身となる事務所を作ったのですが、その当時は、2000年に弁護士広告が解禁されたばかりで、まだ事務所のウェブサイトを持っていない事務所がほとんどでした。ここでいち早く、インターネットで情報発信をして多くのお客さまから依頼をいただくことができました。また、2008年には、ロースクール制度による新司法試験経由の弁護士が稼働し始め、合格者数の増加により、新人弁護士を採用しやすい環境になりました。インターネットで集客を行うと、だいたい月にどれくらいの相談があるかを計算することができるため、どれだけの弁護士を採用してもよいかを計算しやすくなります。ですので、思い切って多くの弁護士を採用することができました。一つの分野で成功しても、新しい分野の専門チームを作って、事務所の専門領域を広げる努力を怠らなかったことも現在の規模に繋がっていると思います。そして、それぞれのチームを任せた若い弁護士やパラリーガルが気概と責任感を持ってチームを成長させてくれたことが大きかったと考えます。

  今のお仕事は個別の案件よりも経営のことが中心だと思いますが、会社経営と弁護士としての業務どちらの方によりやりがいを感じているのでしょうか?

浅野さん: 私自身は個別の案件の方によりやりがいを感じます。もっとも、多くの弁護士や事務職員を雇っている以上、みんなに働きやすい環境を提供してハッピーになってもらう必要がありますので、会社経営に比重を置く責任があると思っています。この考えに切り替わるまでには時間がかかりましたが、今ではその方がより多くの依頼者の力になれるという思いで折り合いがついています。今は、ご相談者に事務所の中で最適と思う弁護士をアサインして、うまく解決ができたときに一番喜びを感じています。

浅野健太郎さんの座右の銘「常に貪欲に」

  普通の会社経営と弁護士事務所経営の一番大きな違いはどこでしょうか?また、独立性の高い弁護士集団を束ねるためにどのようにリーダーシップを発揮しているのですか?

浅野さん: ここは非常に難しいところですね。弁護士は独立性も高く、個性も強いし、権利意識もしっかりしていますからね。べリーベストは比較的大きな組織なので、会社のような仕組みで経営しなければならないところがあります。

きちんとマネジメントができるチームを作っています。オフィスごとに所長を置いた上で、いくつかのオフィスを統括するエリアマネージャーという弁護士を置いています。また、業務分野ごとにマネージャーを置いています。たとえば、離婚の業務マネージャーは全国の離婚案件が滞りなく、処理されているかをチェックします。また、事務所全体のサービスのクオリティを管理するため、品質管理室という部門も設けて、二重、三重に、なるべく漏れがないように見て行こうとしています。

また、「頑張れ、頑張れ」と言わなくても自然と頑張るような「仕組み」も大事だと思っています。つまり、頑張れば頑張っただけ待遇が上がるような仕組みを試行錯誤しながら作り上げてきました。弁護士の待遇には上限を設けていません。水が高いところから低いところに流れる物理法則のように、自然の力学に沿ったルールを作ることで、自然と皆が頑張ってくれるようになっていると思います。

その上で、必要のないところは縛らず、自由にやってもらうことにしています。たとえば、出退勤時間の管理はしていませんし、事務所のお客さま以外に、各弁護士が自分で顧客を開拓して自分の売上にできるようにしています。自分で会社を経営している弁護士や小説家の弁護士もいます。

  経営者として常にプレッシャーに晒されていますが、どんな風に対処していますか?また、お仕事と家庭のバランスをどのように取っていますか?

浅野さん: そうですね。これを一人で抱え込んだら大変ですね。幸い、3人の代表弁護士(いずれも大学ゼミの同級生)で経営していますし、われわれだけではなく、主要な経営メンバーで構成される経営会議を設けて議論しながら運営していますので、一人一人にかかるプレッシャーは分散できていると思います。良い意味で、自分事を他人事のように考えられることもあります。

また、気のおけない友人らと飲みに行ったり、ゴルフに行ったり、家族と旅行に行ったり、これらのことと仕事のバランスがうまく取れていますね。あとは、僕の場合は、リラックスした形で仕事ができる方向に持っていっていますね。

ちなみに、私は毎晩平均7時間寝ています。コロナ前は短かったのですが、コロナ以降は会食がなくなり、7時間寝るようになったおかげで、翌日仕事のパフォーマンスが劇的に上がり、体調も以前より良くなったので、今はすっかり7時間の睡眠時間に慣れています。

それから、弁護士として働き始めた当初はプレッシャーに強い方ではありませんでした。自分が担当したお客さまの心配と自分の心配がイコールになり、寝る時もお風呂に入る時もお客さまと同じようにその事件を悩んでいました。仕事に慣れてきて、扱う案件も増えると、体の防衛本能によるものか、良い意味で適度な間合いで仕事ができるようになりました。そういう意味では、お客さまからすれば、冷静かつ的確な判断ができるベテラン弁護士と気持ちまで入れ込んでくれる若手弁護士のセットで事件を担当してくれる方がベストですね。

家庭とのバランスは家庭に負担をかけている面もあると思いますが、土日に仕事を入れない(あっても家でやる)、週に最低一度は家で夕食をとる、というようなルールは自分の中に持っています。最近はリモートワークができる環境になって来たので、やりやすくはなってきています。

  弁護士やニューヨーク州弁護士、税理士、弁理士、社会保険労務士など数多くの資格を持っていますが、これだけ多くの資格を志したきっかけは何でしょうか?

そして、浅野さんにとって資格を取るのと取らないのとプロフェッショナル人生はどう変わるのでしょうか?

もし今の大学生や20代の若者に資格を取った方がいいのか、あるいは取らなくてもいいのかと聞かれたら、浅野さんご自身の経験を踏まえてどう答えますか?

浅野さん: この中で実際に試験を受けて取得した資格は日本の弁護士とニューヨークの弁護士資格だけです。その他については、弁護士になったことで登録することができる資格です。資格はとった方がよいと思います。資格がないとできない弁護士、税理士などの仕事ができることはもちろんですが、ビジネスをしようと思った時に、資格者しかできないビジネスだと参入障壁があるので戦う相手がかなり少なくなります。資格が要らない領域でビジネスをやろうとすると、極端な話、国内でいえば1億3000万人全員がライバルになり得ます。しかし、弁護士業界だけで言えば、ライバルは4万数千人しかいません。参入障壁がなければここまで事務所の規模を大きくすることができなかったと思います。また、ニューヨーク州弁護士の資格を名刺に書いておけば、言わずとも英語を使う国際案件もできるのだと分かりますので、自然とチャンスに巡り合える確率が上がります。

弁護士の資格は、弁護士にならなくても、ビジネスの中で活かすこともできます。例えば、経営者が顧問弁護士を雇っていても、常に顧問弁護士が横にいて、全ての判断に的確なアドバイスをくれるわけではありません。実は、経営者自らが法的な問題だと意識していない場面が法律的に重要な分かれ道になることが多いです。法的な観点を持っている経営者ですと、これは弁護士に相談すべきポイントだと分かり、落とし穴に落ちる確率も下がります。

  20年以上にわたり弁護士のお仕事をしてきて、携わる案件の変化から日本社会の変化をどのように読み解きますか?

浅野さん: 弁護士が一般個人の方にとって圧倒的に身近になったと思います。たとえば、いわゆる離婚調停(夫婦関係調整調停)において、代理人弁護士が関与する事件の割合は、2005年では23.0%だったのに対して、2019年では53.7%になっています。これは2000年の弁護士広告の解禁と、インターネットの普及の効果だと思います。

交通事故の死亡事故件数は1970年で16765人が、2021年は2636人と過去最少まで減少しています。これは自動車の安全技術の進化などによるものだと思います。

また、最近で言えば、インバウンドの案件が増えてきています。べリーベストは中国の大きな法律事務所と提携していますが、コロナで停滞していた交流が昨年後半から活発化してきて、インバウンド投資の案件が復活しつつあります。

真ん中は浅野健太郎さん

  浅野さんご自身が弁護士になった頃の若手弁護士と今の若手弁護士の傾向にどんな違いがありますか?

浅野さん: 若手弁護士でも色々なタイプがいますので、「傾向」と言われても一概に表すことが難しいですね。司法試験が受かりやすい試験になったので、昔よりもバラエティーに富んだバックグラウンドや性格の弁護士がいるのではないかと思います。せっかく弁護士になったのに、結構あっさりと弁護士資格を使わない仕事に転職してしまったり、ビジネス志向がとても強い弁護士がいたり、ワークライフバランスを非常に重視する弁護士がいたり、稼ぎをとても重視する弁護士がいたり、稼ぎにまったく興味がない弁護士がいたり、幅広い分野をやりたいという弁護士もいますし、一つの分野だけやっていたいという弁護士や、争いごとが嫌いという弁護士までいます。出来不出来にもかなりの差があると思います。

  近頃大きな話題を集めている生成AIのChat GPTが弁護士の業務にどんな影響を与えていますか?また、Chat GPTに代表される飛躍的なAIテクノロジーの進歩によって、今後の法曹界や日本社会にどんな変化をもたらすと思いますか?

浅野さん: ChatGPTについては、話題になった当初から事務所内でもいろいろ議論になりました。使い方次第で非常に業務が効率化されると思います。今後精度が良くなってくれば、リサーチをする場合には必ずまずChatGPTに調べさせて、そのうえで内容の確認をしたり、補足的なリサーチをすることで圧倒的に時間を短縮できると思います。判例の検索精度も上がってくると思います。訴状などの裁判書類についても下書きを作成してもらうことで効率化が図れると思います。

ただ、一方でお客さまも事前にChatGPTで下調べをしてくると思いますので、弁護士がChatGPTよりも大きな価値をお客さまに提供できなければ報酬をいただくことができなくなります。その意味では、その価値を提供できない弁護士は淘汰されていくと思いますし、そのような価値を提供できるような勉強やトレーニングが必要になってくると思います。

これは弁護士の世界だけではなく、どこでも起こることだと思います。教育のあり方を根本から考え直す必要があると思います。今は、誰でもスマホやPCを持って生活しているのですから、スマホやPCを用いることを前提として、これからはChatGPTなどのAIを用いることを前提として、これらを使いこなすこと、情報を選別したり分析したり、戦略を考えたりといった力を磨く必要があると思います。暗記型の授業や入学試験から早く脱却してほしいと思います。

  浅野さんの夢は何ですか?

浅野さん: 最高を目指して今より良い方向へ進み続けるタイプなので、あまり具体的な夢とか目標がないのですよね。

  浅野さんの座右の銘またはお好きな言葉を教えてください。

浅野さん: 常に貪欲に。

※聞き手はThe Voice 編集長シャオシャオ

※ゲストの肩書きや記事の内容は全て取材当時(2023年3月)のものである。

編集後記

浅野さんの20年以上にわたるプロフェッショナル人生は常に「最高」を目指して走り続けた20年間でもありました。また、仕事に対していつも「貪欲に」かつリミットを設けずに取り組む勇敢な姿勢がとても印象的でした。そのひたむきさが実を結び、ベリーベスト法律事務所を大きく成長させたのだと思います。

「運も実力のうち」という言葉がありますように、浅野さんが比較的短期間でベリーベスト法律事務所を急成長に導いた裏で、運を味方につける力や風を読む力、社会の需要に応じた的確な経営判断力、さらに、独立性の高い弁護士集団を率いる類い稀なるリーダーシップ力がありました。

浅野さん、どうもありがとうございました!

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